ふたたびお目にかかりました。こんにちは、Pomと申します。普段はボードゲームの動画とか、ボードゲームじゃない動画とかを作っている人間ですが、これにて2度目の寄稿となります。引き続きよろしくお願いいたします。本文で口調が変わるのは趣味なのでお気になさらず。
『ディープ・ブルー』レビュー
今回の作品は、先ごろにホビージャパン社から日本語版が出版された『ディープ・ブルー』。海の底に沈んだ遺跡や財宝を探し当てるチキンレース系のゲームで、同名のサメ映画とは特に関係がない。たまに謎の海棲生物に船を沈められたりするので、サメ過激派、およびSPC職員は海棲生物を「サメ」と読み替えつつ読み進めていただきたい。
出版:ホビージャパン/Days of Wonder
デザイン:Daniel Skjold Pedersen & Asger Harding Granerud
プレイ時間:約45分
プレイ人数:2~5人
対象年齢:8歳以上
30秒後は海の底
プレイヤーは沈没船や遺跡に眠る財宝を狙う、命知らずの船乗りだ。あの水平線、輝くのはどこかに宝石を隠しているから。さぁ出かけよう、ボンベ、モリを小船(2隻)に詰め込んで。……いやもっと慎重に用意しろよと言いたくなる気持ちは痛いほど分かる。しかし、ほかのプレイヤーも同じように海底のラピュタを探している以上は悠長に準備はしていられない。
実際ゲームの準備は簡単で、各プレイヤーの持つ2隻の船をスタートラインに配置し、規定の手札(同内容、プレイヤーごとに表面の色だけ異なる)を配り、ボードの規定の位置に「沈没船タイル」をシャッフルして裏向きに配置するだけ。この沈没船タイルに宝石が眠っているというわけだ。
プレイヤーが手番に行えるアクションは「船コマを移動させる」「(自分の)船がいるタイルを調査(潜水)する」「金を払って船員を雇う」「使った手札を戻す(3枚まで)」の中から1種類だけ。細かいことは後で説明するが、タイルは1回調査すると消滅するため、動きが遅れると調査可能な場所がガンガン減っていく。
それに加えて、先述の通り手札(船員)の内容は固定で、移動にも新たな船員を雇うのにも手札が要る。移動時にはスクリューアイコンが描かれたカードが、雇うには紙幣が描かれたカードが必要だ。カードに両方が描かれている場合は、どちらの用途として使うかを宣言せねばならん。
調査時の報酬を安定化させるためには船員を雇ってから動きたいが、憎たらしいことに初期手札の中で最高額の紙幣(2金)が書かれているカードにはスクリューが備え付けられている。つまり、入念に準備を進めるほど出遅れるワケだ。
さらに、マップに置かれるタイルには「初期沈没船タイル」と「上級沈没船タイル」の2種類があり、基本的に後者の方が色々と“美味い”構造になっている。上級タイルに達するためにはマップの奥地に進む必要もあり、距離を離されるのはけっこう痛い。
もし無謀な連中が突出して先に宝石をかっさらおうものなら、自分が「無駄に慎重だったアホ」にされてしまう。多少のリスクは承知でさっさと海に飛び出すべきか否か……。というのが、本作のジレンマの基礎にあたる。
死人の箱に残るのは宝石か
それとも……
沈没船に到達したらタイルを公開、晴れて調査可能(実際のルールでは「潜水」と表現するが、直感的でないのでここでは「調査」と表記する)となる。調査を宣言したプレイヤーは“宝石”や“宝石じゃない何か”がジャラジャラと入った布袋に手を突っ込み、それを1つずつ取り出していく。そう、調査のシステムはみんな大好きバックドローだ。
もちろん取る回数に制限はなく、宝石は出れば出るだけ勝利点になる。しかも初期手札を含む船員カードの中には「特定の宝石が出た時に追加得点を得る」というボーナスカードも入っているときた。こりゃもうジャンジャンバリバリ引くしかない!
と言いたい所だが、袋には「酸素トラブル」を意味する青い石と、謎の「海棲生物の出現」を示す黒い石も入っている(以下、青石/黒石と呼称する)。1つだけ引いた段階ではセーフだが、2つめを引いてしまったら調査は即打ち切り。宝石は海の底に沈み、調査タイルも通常通り消滅してしまう。死人の箱から生きながらえられるのは勇気あるものだけなのだ! ……なお、人間はしぶとく生き残るのでコマがロストすることはない。
一応対策は存在し、青石は「酸素ボンベ」、黒石は「銛」のアイコンが描かれたカードを消費することで、1アイコンにつき1個まで軽減できる。安全に調査をしたければ手番を使ってカードを増やせ、というわけだ。かくして、ジレンマは振り出しに戻る。うーんなんとも悩ましい。
謀略か、挑戦か
さて、これだけだと結構大味なゲームに聞こえると思うが、ここに二点ほど重要なポイントが噛んでくる。それが、調査を実行した際に発生する「相乗り」と、各調査タイルに設定された「偵察スポット」という要素だ。
順番にいこう。まず相乗りだが、これは文字通り調査を宣言したプレイヤー以外が勝手に調査に同行してくる仕組みを指す。調査しているタイルの隣のマス(タイル)からも相乗りは可能、かつ宝石から得られる勝利点は全員が(カード効果を除いて)額面通りの点数を得られるので、いざ調査を宣言すると周囲から「俺も俺も」とワラワラと船が集まってくる。
調査を宣言するプレイヤーの利点は2つ。1つめはタイル中央に表示された勝利点で、これは調査に失敗したとしても確実に入手できるという点。2つめは調査を続けるか止めるかを決定する権利は、調査開始を宣言したプレイヤーだけが持っているという点だ。
例えば、調査中に青石を2個引いて相乗りしてきた連中がドザエモンになっていたとしても、酸素ボンベを持っていれば無視して調査を続けられる(その場合、相乗り勢は報酬を得られない)。ただし相乗り勢も普通にカードを使えるので、自分が怪生物に食われている中で宝石を持ち去られることもある。誰がどのカードを買ったのかはよーく覚えておこう。
続く偵察スポットは、この駆け引きを強化する要素として機能する。タイルには最大4つの“枠”が存在し、タイルに到着したプレイヤーは先着順で“枠”に自分の船を配置できる。枠には「酸素ボンベ1個分オマケ」とか「銀を引いたら+3点」といったボーナスが設定されているので、早いもの勝ちでそれを取り合うわけだ。
安全のために酸素ボンベや銛を確保するか、リーダーとして突っ込むことを見据えて得点追加に走るかは自分次第。欲望のままに得点ボーナス枠に突っ込んだ便乗勢を海の藻屑にしてやるのもなかなか面白い。……まぁ、どれもこれも運次第なのだが。
そんなこんなで、上級沈没船タイルに含まれる4枚の“海底都市”がオープンされたらゲーム終了。各人が得た勝利点を合計し、一番高い人の勝利だ。ここまで約40分~1時間程度で、なかなかスッキリまとまっている。
結論:超クッソ激烈に楽しい運ゲー
『ディープ・ブルー』は常に答えの出ない選択をグイグイと迫ってくる。「よしおまえのターンだ。先に進みたいよな? でも船員も欲しいよな?」「もっと宝石が欲しいよな? まさか諦めるのか?」「隣のプレイヤーが探索したぞ。便乗するか? アイツらの死に様も見たいんじゃないか?」と、脳内の悪魔首脳会議が死ぬほど沸き立つ作品だ。
コンポーネントもアートワークも極めて美しく、めっちゃ凝った勝利点を隠す宝箱(宝箱の形をしているそれ自体に特に意味は特にない)が入っていたり、ゲーム全体のルールを捻じ曲げる「航海日誌」などの選択ルールがあったり、プレイヤーを心理的に盛り上げてくれる要素が詰め込まれている。
終了時間もゲームの準備に掛かる時間も丁度良く「ミスっても後で取り返せばいいや」と思えるバランス構築も素晴らしい。ちょっとパッケージから受ける印象とゲーム内容に乖離があるのが残念な所だが、中身を楽しめると思う人は是非遊んでみてほしい。
ディープブルー / Deep Blue