プレイ人数 : 2~5 人
プレイ時間 : 60~90分
対象年齢 : 12歳~
作者はHansa TeutonicaやDie StauferのAndreas Steding。
ゲームデザインは本業ではなく、歴史の研究家(本人の弁によれば本業と思っているがお金にはなってないそう)、実のところは主夫業が専門とのこと。
余談で今後自分も直る気はしないが、音声で確認するとTeutonicaはTuton(英:Teuton チュートン)からきていて、日本でよく言われる「テウトニカ」ではなく「チュートニカ」が正しい様子。
歴史研究家を自称する氏らしく、作るゲームのシステムは毎回少しかわっていてヒストリカル ― 歴史再現的なフレイバー ― を大事にしている印象がある。
今回レビューする故宮もなかなかに歴史再現に重きを置いた独特のワーカープレイスメントとなっている。
どんなゲーム?
故宮とは日本では紫禁城と言う名で知られる歴史的建造物の事であり、栄華を極めた中国の腐敗と没落の時代、明清朝の象徴とも言えるものである。
今作はその明清朝の腐敗を非常に特徴的でゲームの中心を成す象徴的な要素として変形型のワーカープレイスメントとして採用している。
氏の他のゲームもそうなのだが、要素や得点経路が多く軸となるメカニクスの他の要素も独特なものが目立つ。
中核を成すワーカープレイスメント部分は当時の贈賄による腐敗と法律による禁止を再現するというユニークなフレイバー。
役人による賄賂がはびこり国家の中央的機能が健全に機能しなくなり、国家運営の立て直しのため法令で賄賂が禁止となる。
すると商人と役人は物々交換をはじめる事になる。
具体的には役人から価値の低いものを受け取り、より価値の高いものを渡すことで「賄賂ではなく取引ですよ」と言う建前のもとに贈賄を行っていた。腐ってる。
当時のこのような情勢を上手に再現し、役人の持ち物の価値(カードに数値で示される)以上の価値のカードと交換することで役人に便宜をはかって頂きアクションを実行する事ができる、が価値の低いものを贈った場合には便宜がはかってもらえずアクションを行うことが出来ないという風変わりなアクション選択システムになっている。
ここで交換したカードは時ラウンドの手札となるため無闇に価値の低いカードも受け取りたくないが、高いカードを獲得しつつアクションするにはより高いカードが・・・でも低いカードを残しておくと他の人に低価値のカードアクションされるし・・・と本当に悩ましく楽しいメカニズムになっている。
コアの変態ワーカープレイスメントの他にも、のちに触れる徴税の代行や運河を利用した交易、万里の長城の改築、未だ宮廷に権力を持つ引退役人とのコネクション作り、贈り物の流行、と他のゲームではなかなに見ないシステムが散見する上、よく見かけるわかりやすい要素としてランダムセットアップの目標設定やセットコレクション要素、単純なレース(すごろく)の入り交じるユニークなゲームになっている。
一般的な要素
変則的でユニークな要素が多数盛り込まれたゲームではあるが、先に述べたように他のゲームでもよく見られる要素がいくつかあるので駆け足で説明する。
宮廷
単純なすごろく、ゴールでは皇帝との謁見があり到着順によって点数が貰える。終了までに謁見できなかったプレイヤーは何点とっていても脱落となるので直接このアクションを打たずとも、なにかしらの方法で必ずゴールまですすむ必要がある。
翡翠
集めた数によって得点となる、入手方法はいくらかあるものの基本的に誰かが取得するごとに取得に必要なリソースが上がっていくので、必然的にはやどり有利になる。
正直なところ独占できればそこそこ戦える強さのアクションであるが、複数人で取り合いになると割の合わないバランスになっている。
そのため拡張で大幅に強化がなされる。
布告
ゲーム開始時にランダムにセットアップされる。
得点の効率がかわったり特定のアクションのコストが下がったり、単純に点数が貰えたり毎ターンの収入になるエンジンを構築できたりとゲーム毎に変化をつける要素。
独特なメカニズム
コアメカニズムの物々交換によるワーカープレイスメント以外の、先に軽く触れた要素もざっと説明する。
ゲームの楽しさに直結する部分でもあるので少々長くなるがおつきあい頂きたい。
流行
市井にはお国の役人の要求とは別に流行があり、特定の価値の贈り物(流行品)を手元においておくと最多数の流行品をもっているプレイヤーに大きな恩恵がある。
流行はラウンド開始時にダイスによりランダムに決定され、本来の価値ではなく弱い数字にも大きな意味が出てくる。
徴税代行
旅アクションとも呼ばれる要素で中国各地に部下を派遣して徴税を代行する事により、ついでに追加アクションを任意のタイミングで行える各地方の特産品を集める事が出来る。
言い換えると1アクション消費する事によって強力な代替アクションを得られ、さらにアクション用トークンは消費しても得点やワーカー獲得をおこなえるリソースとして使用する事ができる。
拡張を混ぜない基本セットにおいては相当に強力な要素で、少人数で独占するとこの徴税とそこで得た追加アクションで得点の半分以上を稼げるバランスブレイカー的要素でもある。
引退役人の便宜
このゲームはカードの他にもリソースとして使える使用人と呼ばれるワーカーがもう1種類ある。
引退役人にコネを作っておくと使用人の紹介(入手)をしてもらえたり、様々な場所での同点判定の時に便宜を図って貰える(タイブレイクの基準となる)。
他にも流行を意図的に操作するステルスマーケティングのような事をしてくれたり、裏ルートで翡翠を調達してくれたりとなにかと便宜を図って貰える。
万里の長城の修復
古代からの遺産「万里の長城」の修復をおこなう。
独特にして悩ましい要素で、手番毎に建築に使用人(ワーカー兼リソース)をもっている派遣する事ができるのだが、修理区画毎にマジョリティ争いを行いトップのプレイヤーのみが皇帝の覚えも良くなるなど利益を得られる。
また修復に参加しているプレイヤーのみが引退役人にお願い事ができるので、常に参加はしておきたい・・・が参加ワーカー数で決済が起こるため、ここを得点源とするプレイヤーは多数のプレイヤーが参加すればするほど決算を起こしやすくなる。そのため参加させる人数やタイミング、もしくは自分がここを得点源とするかで選択を強いられる、このゲームをぐっと面白くしている要素であると言える。
交易
アクションごとに使用人を派遣し、ある程度の人数が派遣できると港ごとの特産品を得られる。
特産品は贈り物(アクション数増加、ワーカーとも言える)や通常の2倍の価値のある使用人(1アクションで2人分の使用人が派遣できる)の他、単純な得点行動がある。
ワーカー強化やアクション増加はゲームの進行に大きく影響するので苛烈な港の取り合いと使用人派遣人数のパズルが絡み合った他であまりみかけない珍しいインタラクションが生まれる。
各要素が混ざり合った結果
ランダムな布告によるが、各アクションで述べたようにはっきりとアクションごとに強弱があったり、必須といえるアクションがある。
この事を知っているか知らないかでかなり打ち筋に変化がでて来る。
とくに多人数参加で弱化する翡翠、他参加者を利用して抜きんでる事が強い長城修復、そのためのタイブレイク強化の引退役人等々初回プレイではなかなか見えにくいのではないかと思う。
他にもアクションを優先したいので低い価値(数字)のアクションポイントの早取りと流行を追う事の取捨選択、強力なので必ず参加して独占させたくない徴税等々プレイヤー側でバランスを取らないとならない要素がいくつもある。
これは欠点に聞こえるが、リプレイを行うメンバーであればやればやるほど味がでてくるのでリプレイに深みを持たせる結果になっていると思う。
反面現在輸入ゲームをプレイする方々の主流とも言える、どのゲームも1~2回しか触れる事がないようなプレイスタイルではなかなか評価が難しいゲームとも言える。
リプレイが楽しいゲームはいくつもあるとは思うのだがこのゲームほどリプレイで味が変わってくるゲームもそうそう無いのではないかと思うので、なにか一つのゲームをやり込んでみたい!と言う方には是非候補として検討してみて頂きたい。
これだけ沢山のゲームがでているなか、独特のシステムを枝葉として多数盛り込んでいるオンリーワンなゲームと言えるのでシステムスキーな方々、色々な種類のゲームをプレイしてみたい!と言うかたにも是非味わって頂きたいゲームでもある。
拡張「叛軍」について
2020年10月ごろにKickstarterで支援を募っていた拡張セットが届き始めた。
様々な追加要素があり、よりビッグゲームになったのだが主にリバランスが目的とされていたように思う。
おおよそのゲーム展開において弱いアクションとなってしまっていた翡翠の大幅な強化、代替アクションが多数追加された事による徴税の相対的な弱化、交易で負けて強力な双子ワーカーを取り遅れてしまっても代わりに使える中立ワーカーの追加と非常にバランス良く勝負できるようになっていると感じた。
とは言え、これらは基本セットでのバランスを知った上でのリバランスと言えるのでやはりリプレイ向き。
要素が多い点も含めて初プレイ時に入れて覚える事が増える事に対してプレイ体験が向上するかと言うと少し疑問。
なので基本セットでのバランスの不均一さを理解したプレイヤー同士で遊ぶ際の導入をすすめたい。
この記事の反応がよければ再度拡張のレビューを記事として執筆しようかと思っている。
できるだけ感覚そのままより言語化、体系化して伝えるレビューを心がけてます。
故宮 / Gùgōng
One Comment on “故宮 / Gùgōng”
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