クアント

レビュー黒菱 シンカ

Review of: クアント

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4
On 2023年8月18日
Last modified:2023年8月18日

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今回はクアントを紹介したい。アークライト社の「カイジュウ・オン・ジ・アース」シリーズ、シーズン2の第1弾だ。カイジュウ・オン・ジ・アースは日本の名うてのゲームデザイナーを集めた大型企画。ここに今回、デジタルゲーム時代から愛好していたステッパーズ・ストップ、ポーン氏の作品が加わると聞いて、たいへん楽しみにしていた。

舞台はヨーロッパ

カイジュウ・オン・ジ・アースはその名の通り「怪獣」を下地にしたボードゲームシリーズ。シーズン1ではボルカルス、レヴィアス、ユグドラサスの三体が登場。今回はその続編、シーズン2開始の一体目として、怪獣ユグドラサスを打ち倒した直後、その朽ちた体内より現れ出でた昆虫型怪獣クアントが相手となる。増殖・結合を繰り返す無数のクアントから、ヨーロッパの各都市を守るのがメインストーリーだ。

ヨーロッパの都市がランダムに並ぶ。ここの並びで展開も変わる

ゲームデザイナー

ポーン氏は大人気作「ブレイドロンド」シリーズや「シェフィ」「ゴリティア」「さかな・さざなみ・さようなら」といった、ソロプレイや二人対戦ゲームを得意としているゲームデザイナーである。ボードゲームデザイナーとして活躍される前は、フリーゲーム(PCの個人制作ゲーム)界隈で、切れ味抜群をいくつも発表されていた(厳密にいえば、いまもボードゲームに限らずいろいろな作品を発表されている)。

そんなポーン氏をゲームデザイナーに起用し、ソロプレイ(1人用)としても抜群に面白いものを目指した、という評判通り、今作は、ソリティア味の濃いシステムを採用が採用されている。ポーン氏の作品を遊んだことがあるなら、そのうちのひとつ、名作シェフィを想起させるシステムだ。

個人的な好みの話にはなるが、過去のゲームシステムをリファインしたボードゲーム、特に、根本に同じものを持ちながら似て非なる手触りを見せつけてくれるボードゲームが、たいへん好きだ。なんの進化もしてないじゃんとツッコまれかねないリスクを乗り越えて、こういう調整でこんなにも面白さを変えられるものなんだな〜と実感させられるのは素直に気持ちいい。

ウィーンの脆さよ

厄介な怪獣

シェフィと同様に、このゲームでも、1と3という数字がキモになっている。1、3、10、30、100、300、1000という数字を使ったパズル的なおもしろさがここからあらわれる形だ。

怪獣たちにランクごとに割り振られたこの数値が、融合の基準となる。同じ都市に集まった怪獣が上位ランクの数字に達することで、融合を始める。1の怪獣が同じ都市に三体集えば3の怪獣になり、3の怪獣が四体集えば10の怪獣になる(余りは切り捨て)。

上位の怪獣になればなるほど厄介な特殊能力を持っているため、ランクが上がれば上がるほどつらくはなるが、しかし怪獣の数自体は減るため、いちおう対処はしやすくなる(こともある)。ここの駆け引きのバランスが極めて楽しい。あえて融合させる・あえて分散させる、の繰り返しでなんとか調整していく。ある程度の撃破数がないと上位の怪獣が倒せないシステムも、そのやりくりに拍車をかけてくる。

マザーが出てくるところまでたどりつけなかった

1と3の切れ味

ここの1と3で構成された数字パズルの発想の切れ味がまず見事だとあらためて思わされた。シェフィだけで終わらせるのはもったいない秀抜なアイデアだったと思う。そのシステムの中でどれだけ羊を増やせるかと遊ばせてくれたシェフィと、より洗練させた形で、どれだけ耐えしのげるかを競わせるクアントの対比は、かなりおもしろかった。

2人プレイ、3人プレイのときは、それぞれの手札から1枚を場に出し、そこにランダムのカードを加える形で、処理すべき5枚を準備する。

ゲームの流れ

ゲームは基本的に5枚の手札を1枚ずう使うことで進んでいく。

山札から引いたカード5枚を、手札として持ち、そのうち1枚を選び、効果を発動させる。そしてまた手札5枚になるように補充する。ソロプレイ時は基本的にこの流れだ。それを山札がなくなるまで繰り返して、ラウンド終了となる。

3ラウンド目がはじまった瞬間に複数の都市が壊滅した

山札一巡を1ラウンドとして、3ラウンド耐え凌げは勝利。都市ごとに定められた怪獣許容量を超えたら壊滅となり、壊滅が3つ発生したらそこで敗北だ。

使用されるカードには良い効果も悪い効果もある。良いカードは怪獣を撃退したり移動したりできるのだけど、枚数は少なめだ。むしろ圧倒的に面倒な悪いカードたちをいかに受け流していくかがゲームの遊びどころになる。すべての都市に怪獣が出現したり、一ランク上の怪獣が突如登場したり、と、混乱のタネが落ち着く暇もなく舞い込んでくる形だ。山札のカードはすべて使い切る必要があるため、すべての恐怖カードが毎ラウンド待ち受けている(もちろん除外したり先送りしたりと対処方法も駆使しつつではあるけれど)

ラウンドとラウンドのあいだの処理で、巣穴からクアントが湧いて出てくる。ここが最も危険域だ。遊んだときは3ラウンド開始直後、湧き出した蟻たちを駆除しきれずにそのまま敗北した。いやもう難しいが、気持ちよい負けっぷりではあった。

そこまで上位ではないランク3の怪獣、ソルジャーの特殊効果、「ソルジャーがいる都市は怪獣許容量がひとつ下がる」の効果が上手すぎる。陰険すぎる。あんまり問題にならない場面(たいしたことない効果だな〜)と、どうにもできない場面(こいつがここにいる時点で詰んでるんですけど…)の振れ幅がおおきすぎて笑った。

ユニークスもかなりやっかい

3人プレイを大変楽しんだ

というわけで、最近ボードゲームができていないなか遊ぶことのできたクアント、心の底から堪能しました。

ひつじの数を増やしていこうとするシェフィのシステムをより洗練させて、勝手に融合して数を増やしてくる怪獣クアントから世界を守り抜く、という逆の方向のゲームシステムを、見事に見せつけてくれたなと感じます。

ソロプレイできるよがウリのひとつではありますが、今回遊んだ3人プレイの大混乱は非常に楽しかった。複数人プレイもぜひオススメしたいところ。

そして個人的には、カイジュウオンジアース(Kaiju on the Earth)企画をほんとうに応援しております。日本のボードゲームデザイナー全体の名を上げていくような企画を立ち上げたことに敬意を表したい。シンプルに楽しいゲームを続けて出してくれているという感謝もあるけれど。まだまだ腕利きのボードゲームデザイナーはたくさんいるはずだし。あの傑作を出したあとあまり見かけない隠れた名デザイナー、なんかが参加してくれりしたらさらに嬉しいなと思う。いずれにせよシーズン2の第二弾、第三弾も楽しみにしています。

クアント

4

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